研究概要

擬ポリロタキサンナノシートの研究

ナノシートとは、膜厚が数ナノメートルであるのに対し横サイズがその数百倍のマイクロメートルオーダーとなっている材料です。2010年にノーベル物理学賞を受賞したグラフェンナノシートが代表例で、多くの場合共有結合を介して構築されています。

2018年に当研究室では、全く新しいナノシート材料である擬ポリロタキサンナノシート(Pseudo-PolyRotaxane NanoSheet;PPRNS)の合成に成功しました[1]。PPRNSは環状オリゴ糖であるシクロデキストリン(CyD)が室温の水中で自発的にポリマーを包接し、さらに階層的な自己組織化が生じることで形成されます(Figure 1)。β-CyDは末端がカルボン酸修飾されたpoly(ethylene oxixe)75-block-poly(propylene oxide)29-block-poly(ethylene oxide)75 (HOOC-EO75PO29EO75-COOH)トリブロックコポリマーのPO部位のみを選択的に覆い、その際にPO部位は伸びきります。するとPO上に集積したβ-CyDの高さはPO29の伸びきり鎖長(約11 nm)に制限されます。このユニットがβ-CyDの直径方向にのみ結晶成長することで、厚さ11 nmのβ-CyD単結晶から成るひし形のPPRNSが形成されます。PPRNSの構造は走査型電子顕微鏡観察(SEM)、原子間力顕微鏡測定(AFM)、小角/広角X線散乱法(SAXS/WAXS)、斜入射広角X線散乱(GIWAXS)、X線反射率法(XR)、中性子反射率法(NR)、光学顕微鏡観察(OM)などの構造解析手法を用いて詳細に解析しました(Figure 2)。PPRNSは、極めて簡便な製造法、大量生産可能、材料が安価で手に入りやすい、構成分子は高生体適合性である、などの利点があり、ナノシート材料の応用を新規開拓する可能性を秘めています。現在までに、異なるCyD種(α-, γ-CyD)から成るPPRNSの合成や、軸ポリマーの設計によるPPRNSの構造制御に成功しています[2][3][4]。

PPRNSを構成するCyDと軸ポリマー(通常ポリエーテル)が高生体適合性であることはPPRNSの大きな特徴の一つです。PPRNSは極めて薄い膜厚に基づき柔軟性を示すので、凹凸のある基板に対しても追従し、近距離相互作用して強く付着します。これらの特徴を利用して、生体組織コーティング剤としての応用を展望して、生体関連材料への付着実験を行っています(Figure 3)。またDDSとしての応用展開を見据えて、PPRNSへの低分子担持能についても調べています[5]。

擬ポリロタキサンナノシートの研究

Figure 1. Schematic illustration of the formation of PPRNS.

擬ポリロタキサンナノシートの研究

Figure 2. (a) SEM image, (b)AFM image, (c)2D GIWAXS pattern of PPRNS in a dried state, and (d)1D SAXS pattern of PPRNS in water.

擬ポリロタキサンナノシートの研究

Figure 3. SEM image of PPRNS on (a) a polystyrene spherical bead with the diameter of 2.86 μm and on (b) a pig skin. PPRNSs are bended to follow the rough surfaces.

References

[1] S. Uenuma, R. Maeda, H. Yokoyama, K. Ito, Chem. Commun.>, 2019, 55, 4158.

[2] S. Uenuma, R. Maeda, H. Yokoyama, K. Ito, Macromolecules>, 2019, 52, 3881.

[3] S. Uenuma, R. Maeda, H. Yokoyama, K. Ito, Polymer>, 2019, 179, 121689.

[4] S. Uenuma, R. Maeda, H. Yokoyama, K. Ito, Soft Matter>, 2020, 16, 9035.

[5] S. Uenuma, R. Maeda, H. Yokoyama, K. Ito, ACS Macro Let.>, 2021, 10, 237.

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